新潟薬科大学 応用生命科学部
食品機能科学・食品分析科学研究室
准教授 佐藤 眞治
「食品摂取後の糖質吸収率及び中性脂肪動態に関する定量的解析」 【評議委員のコメント】 現在の健康維持に関する話題は、2008年度から施行が始まった特定健診とそれに基づく特定保健指導である。これにより、多くの成人が「メタボリックシンドローム」に該当することが浮き彫りにされた。 問題はこれに対して、どのような保健指導が効率的で効果的かということの検討である。現在の食生活の面からは、食後の高血糖・高インスリン血症を防ぐことが最も効果的と思われる。この点では、本研究者が推進しようとしている研究は極めて重要な課題である。充分な基礎的成績を踏まえつつ、ヒトによる検討を進めようとする研究計画は極めて高く評価できる。われわれ日本人が日常摂取しやすい食品を取り上げての本研究の成果に期待するところが大であった。これにより、特定保健指導での栄養学的面での有用な方向づけが示せるものと期待された。研究報告書では、GIの有用性に疑問視する報告のあることに注目し、その理由についていくつかの問題点のあることを挙げ、これを回避するためには、食品摂取後の血糖値のみを追跡するのではなく、「摂取後の食品の消化管からの糖質の吸収速度」と「血中ブドウ糖の消失速度」を見る必要性を指摘している。そのために、糖質利用率の算出法を確立することを企てている。その上で、内臓脂肪蓄積と密接に関連していると考えられる血中中性脂肪と遊離脂肪酸動態について検討している。 本研究において、食品摂取後のGI「糖質吸収率(F)と糖質利用率(UGLU)を決定するために用いる最重要ポイントであるパラメータは、血中からのブドウ糖処理能力(組織内への取り込み)を表すグルコースクリアランス(CLGLU)であると述べている。 これは、CLGLU(試験食品)=CLGLU/F=DOSE/AUGGLU(試験食品)により、算出可能であると述べている。さらに、トレーランGを経口投与した後の血漿中インスリン濃度下面積(AUCINS)とグルコースクリアランス(CLGLU)を算出し、両者の定量的な関係を検討して、両者に良好な相関関係が存在することを明らかにしている。 これによって、試験食品のCLGLUが算出できれば、AUCGLU(試験食品)×CLGLU(基準食品)/DOSEの式でGIが算出できるとしている。その上で、モデル食品としてインデイカ米ご飯を選択して、インデイカ米ご飯摂取後のAUCINSトレーランGのAUCINSよりも低いために糖質利用率(UGLU)がグライセミックインデックス(GI)よりも低いことを明らかにしている。各種の糖質摂取後の血糖値および中性脂肪値への影響を、客観的に評価し、そのデータを集積して、広く知らしめることは、メタボリックシンドローム(肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症、そして脂肪肝)の予防・治療には極めて大事なことである。 本研究はより科学的にデータを集積すべく方法論を検討しているもので、極めて貴重な研究と判断する。 |